第3章 美樹生

漠然と入った大学に段々と幻滅を感じ始めていた時「熱く燃えてみたい!」と言う衝動に駆られ苛々していた時にラジオから流れてきた1人のミュージシャンの声を聴いた。鳥肌ものであった!今までに聴いたことのない底から湧き上がる熱いメッセージソングに心を奪われた…。かってこんな事は初めてである。恋愛でも無かったのに、ましてや男のVoiceに惹かれるとは(笑)
しかも名前を知ったのは可なり経っていたのだ(笑)

ルックスを見て吹き出しそうになった💬アイドルかと思わさせる可愛らしさ…可なりイメージが⤵️…。

そんなイメージを他所に詩と曲とVoiceが迫力に満ち溢れていた。それに僕は導かれるように魅了させられてしまった。

「よし!東京へ行こう!北海道を出よう!」と魔が差していった。

当然、東京へ出たところで身寄りも無ければ宿もある訳がない。全くの無計画のまま飛び出してきたのだ。しかも家出同然のように手紙で「東京へ行く」と、まるで電報のような、たった5文字の手紙だ。(ハガキでもよかったか?(笑)。

東京での生活は40年前には今より可なりセキュリティや防犯管理は悪く、寝食はある学校の空いている当直室に素泊まりしていたりしていた…今考えると若い時って目的があると怖いもの知らずになり突っ走るものなんだなぁとつくづく思いました…。

ある日若者の美樹生はいつものように新宿へ行ったり原宿でやったりと気分で弾き語っていました。同然スカウトの目に止まるように全身全霊の魂を込めて歌っていた…つもり f^_^;)

ある日を境に妙な感じにさえ生れてきた…と言うか、ずっと僕が歌い出していた頃の初日から、一二時間タバコを吸いながら聴いていた?と言うより顔を覗き込んでいた。そして決まって最後にギターケースに1万円札を1枚入れて帰るド派手な成り立ちのルックスの女性がいた。化粧も今で言うキャバ嬢並みの濃い化粧…。戸惑う僕…。

何日かが過ぎた頃、僕の方から口を開いた。「いつも、ありがとうございます。こんな巨額な金、恐縮です!」と言うと…「…君、どこから来たの?見慣れない顔だけど…田舎?」いきなりつっけんどんに失礼な言葉をストレートに発して来た…。しかし、なぜ分かる?地方出なんて?…。

「きみさぁ〜 泊まっているとこ有るの?風呂は?…良かったらついて来なよ。あたいも独りじゃ寂しいとこだったんだ」こんなんでいいのかなぁ…と思いつつも、生きて行くためだと割り切った。「ありがとうございます。遠慮なくついていきます」と言い切った。

彼女はストリッパーである。彼女も東北の田舎から家出同然に出て来ているらしい。貧乏農家で小作農家に生まれ許嫁までされ好きでもない男の嫁になり実家の犠牲になるのが、どうしても辛かった…。と話してくれた。

女は妙子。吉田拓郎の楽曲に”たえこMy Lave”という歌があるが、時たま流れると今でもドキッとしてしまう…。
こうして妙子の濃厚な愛に包まれた生活が続いていた。路上ライブの時も一緒。妙子がステージでショーをしている時も1番前の席で座ってた。そんな神田川の様な生活を送って幸せ万歳の日々に終止符を打たれたのは一通の電報であった。「父母亡くなる至急戻りたし」…呆然としてしまった…。と同時に「自殺か?だとしたら僕は何て事をしてしまったのであろう…」と心の中で溢れる涙を堪えた。

事情を妙子に伝え「付いて来てくれないか?」と尋ねると「急には行けない…それに敷居が高くて上がれません。あたいはストリッパー…出る幕なんてありません。卑下されながら生きていくのは、もう懲り懲り。時期を待つは」と帰って来た返事だ。

1人汽車に乗り北海道へと向かった…帰郷…。待ち受けていた親戚縁者と奉人…。5代目として奉られている坊ちゃんの僕に課せられる仕事は重大で膨大な物件として残っていた。一変に片付けることは困難だ。先ず休学中の大学に戻り経営、経済、取引、貿易など音楽とは無縁な分野の猛勉強に明け暮れた。そして2年後5代目美樹生のビッグファームの開幕である。

後に妙子から手紙が届いた…。
「ヨー元気か?この手紙が届く頃には多分あたいはこの世には居ないと思う。ステージ4の癌だったの…黙っててゴメン…。終活にあなたを選んだなんて言え無かった。優しくて、自分より相手を尊重する謙虚な心。蹴落としてでも這い上がるタイプじゃないのは充分お見通し。多分、芸能界じゃ不向きな人だったのだと思う。歌もピュアー過ぎるくらい綺麗だしね…いい歌なんだが美樹生の歌は汚れちゃダメなんだよ。量産ヒットを出してるミュージシャンや作曲家や作詞家。嘘っぽくなるでしょ?あなたはあなたの歌を人生の中で歌って行けばいいの。自分の歌。ずーっと大切に歌ってあげるのよ

じゃーね あの世で …」

…涙が止めようもなく流れ瞼の裏に妙子の笑顔が浮かんでは消え、消えてはまた浮かんだ…。

今は元家政婦さんの妻と生活し娘が2人の父親になっているが、決して消えないであろう青春の大きな一コマである。

では、次回またお会いしましょう

美樹生の窓  【四方山話】日常生活においいての気つ”き

【日常のblog】 北海道の片田舎に住むシニアの独り言を語って居ます。幼少の頃から引っ込み思案で中々前に出ないで いつのまにか大人…COPDと言う厄介な持病を抱え職をリタイア…しかし、立ち位置が変わって見えてきたものもある 果たしてこの先の人生をどう読む…あなたと一緒に考えたい☝️

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